抹茶碗やマグカップの飲み口の形の選び方!ポイントを陶芸家が解説

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抹茶碗の「飲み口」のカタチにはさまざまな種類があります。

しかし、どんな形状を選べばよいのか? わかりませんよね。

じつは、「飲み口」の選び方によっては、茶の飲みやすさが変わります。さらには、「飲み口」の形状によっては、割れたり、欠けたりしやすくなるのです。

そこで、このページでは、抹茶碗に適した「飲み口」についてご説明いたします。

あわせて、さまざまな種類の「飲み口」のちがいもご紹介しましょう。

京都の陶芸家として、20年以上抹茶碗を作りつづけてきた職人としての目線で解説いたします。

本物の職人や陶芸家であれば、「飲み口」という目立たないところにこそ、しっかりと作り込みをします。

そういったポイントを解説いたします。あなたの抹茶碗選びに、ぜひお役立てください。

1.「飲み口」3つの形:内向き・外向き・まっすぐ

まずはじめに、飲み口のカタチについてご説明いたします。

抹茶碗の飲み口は、大きくわけると以下の3つのタイプがあります。

抹茶碗の飲み口の3つの形

1.「内向き」の飲み口:姥口(うばくち)

2. 「外向き」のカタチ:端そり(はたそり)

3. 「まっすぐ」な飲み口:直口(すぐくち)

では、それぞれのカタチについて解説していきましょう。

飲み口3つのタイプ注意点

ここでは、抹茶碗を例に飲み口についてご説明しています。しかし、飲み口については、茶碗以外のマグカップやコーヒーカップなども考え方は同じです。

まずは、「内向き」の飲み口をご紹介しましょう。

「内向き」は、陶芸の專門用語では、「姥口」(うばくち)や「内抱え」(うちかかえ)などと言われます。

「姥口」(うばくち)とは、歯のない老婆が口をすぼめたカタチに似ています。そのため、こう呼ばれます。

以下の写真は、「内向き」の茶碗の一例です。

「内向き」の飲み口の茶碗の画像
「内向き」は、飲み口が少し内側にはいるカタチ

写真のように、「内むき」の飲み口は茶碗の飲み口が内側に「ホンの少し内側に入ったカタチ」です。

次に、「外向き」の飲み口をご説明します。

「外向き」の飲み口は、専門的には、「端そり」(はたそり)と言われるものです。飲み口の端(はし)が反っているため、「端そり」と言われます。

以下の画像は、「外向き」の飲み口の一例となります。

「外向き」の飲み口の抹茶碗の画像
「外向き」は、飲み口が外にひらいた形状

さいごの3つめは、まっすぐな口です。まっすぐなため、「直口」(すぐくち」と呼ばれます。

次の写真は、「直口」の茶碗の一例とです。

「まっすぐ」な飲み口の抹茶碗の画像
「直口」(すぐくち)の飲み口は、「まっすぐ」なもの

これらの「飲み口」の3タイプは、「姥口」(うばくち)・「端そり」(はたそり)・「直口」(すぐくち」などの專門用語を覚える必要はありません。

飲み口のカタチは、大きくわけて「内向き」「外向き」「まっすぐ」があると覚えておいてください。

2.抹茶碗の飲み口は「内向き」がよい

雑誌やネット上の情報では、「外向き」の飲み口がよいとされています。口が外に開いているため、飲み物が口に入りやすいという理由からです。

しかし、飲み口のなかで、茶道の初心者には「内向き」がもっともオススメとなります。

2-1.飲み口は「内向き」が飲みやすい

「内向き」の飲み口をオススメする理由は、以下の2つとなります。

  • お茶が飲みやすい
  • 割れ・欠けしにくい

以下に、その理由を解説していきましょう。

つぎの写真は、「内むきの茶碗」の一例です。

抹茶碗の飲み口は、ホンの少し「内むき」がよい

飲み口が、「内むき」がよい点は、お茶を飲むときには、数回にわけて飲むからです。

抹茶碗でお茶を飲む女性の画像
茶道でもご自宅でも、お茶を数回にわけて飲む

茶を数回にわけて飲む場合は、飲み口が「内むき」だと、一口飲んだあとのお茶の「もどり」が良いからです。つまり、お茶が茶碗の外側にコボれにくくなります。

お茶のしずくが外にたれてしまうと、きれいなタタミを汚してしまうこともになってしまいます。

外向きの飲み口は、茶のしずくがたれてタタミを汚すことも。

ところが、「内むき」の飲み口であれば、茶碗の外に茶がこぼれにくくなります。内むきにカーブしてるからです。そのため、お茶がストップしてもどりやすいのです。

つぎの写真は、「飲み口が内むきの茶碗」です。お茶の「もどり」がよいことを説明しています。

内むきは、茶がストップしてもどりやすい

つぎの写真は、反対に「飲み口が外側にひらいている茶碗」です。

外むきの飲み口は、お茶がもどりにくい

「外むき」の飲み口では、お茶が流れやすく飲みやすいです。その反面、お茶のもどりが悪くなります

ですから、お茶のしずくが外にたれてしまうことがあるのです。

このような理由から、飲み口は「内むき」を選びましょう。とくに、お客さまが初心者の場合はおススメです。

「外むき」の飲み口の抹茶碗は、茶道になれているお客さま向きといえます。ここでも、お客さまに、余計な神経をつかわせない「心くばり」が大切です。

2-2.割れ・欠けにくい飲み口は「内向き」

つづいて、「割れ・欠け」しにくい飲み口について解説いたします。

割れたり、欠けたりしにくい飲み口は、「内向き」です。ホンの少しでも、飲み口が「内むき」であることがポイントとなります。

「内向き」なら、他の食器などと当たったとしても、ワレ・欠けしにくくなります。

つぎの写真は、「内向き」の飲み口の茶碗が、他の茶碗とぶつかっているものです。

内むき飲み口の茶碗が他の食器とぶつかる画像
飲み口が、わずかでも「内向き」だと、ワレ・欠けしにくい

写真のように、わずかでも飲み口が「内向き」であれば、口の先が当たりにくいです。そのため「割れ・欠け」しにくいものとなります。

さらに、「割れ・欠け」しにくい茶碗の飲み口のカタチの一例をあげましょう。

次の画像は、400年前に作られた「楽茶碗」(らくちゃわん)です。

400年前の楽茶碗の飲み口の画像
「内向き」の飲み口は、400年たっても欠けない

写真のように、飲み口は、少し「内向き」となっています。

じつは、「楽茶碗」は、抹茶を飲むためだけに作られた究極の茶碗です。今の茶道の祖先である「千利休」(せんのりきゅう)が、職人に作らせました。

つぎの写真は、その「千利休」のものです。

「千利休」は、今の茶道の祖先。
茶を飲むのに最適な茶碗を追求した。

千利休が、指導して茶碗を作らせた職人は、「楽長次郎」(らく・ちょうじろう)といいます。彼は、歴史に残る名工です。

その「楽長次郎」は、楽焼という400年以上つづく窯元の初代の職人となります。

本物の職人が作る茶碗の「飲み口」は、400年以上経ても、飲み口が欠けることなく使えるものなのず。

そして、この「楽茶碗」の飲み口のポイントは、

  1. お茶を飲みやすいこと
  2. 飲み口が割れたり、欠けたりしにくい

以上が、飲み口を選ぶときに、見ておくことです。

「楽茶碗」は、素材の土がとてもやわらかいものとなります。そのため、通常の素材の茶碗より割れたり欠けたりしやすいのです。

にもかかわらず、 飲み口の欠けなど一切ありません。400年以上前に作られた茶碗の飲み口に欠けなどがない。そのことが何よりの証明でしょう。

それは、この茶碗の飲み口は「内向き」で、さらに丸く仕あげてあるからです。

丸く少し太い飲み口の抹茶碗の画像
飲み口が丸く、そして少し太いと欠けにくい

次に、「外向き」の飲み口についてご説明しましょう。

「外向きは」、飲み口が外に向いているため、口が当たりやすく「割れ・欠け」しやすいのです。

以下の写真は、「外向き」の飲み口の茶碗が他の食器に当たった場面です。

外向きの飲み口が他の食器とぶつかる画像
外むきの飲み口は、他の食器とあたりやすい

茶碗を他の食器といっしょに洗うときに、ぶつけてしまうことは良くあることです。

すると、次の写真のように、欠けてしまいます。

外向きの飲み口が欠けた画像
「外向き」は、他の食器に当ててしまうと欠ける

写真のように、飲み口の厚みが薄くするどいカタチであれば、なおさら「割れ・欠け」しやすくなります。

以上のように、割れ・欠けしにくい抹茶碗の飲み口は、「内向き」を選ぶとよいでしょう。

3.「外向き」飲み口を選ぶときの2つのポイント

「外向きの飲み口のカタチが好きだ」という方もいらっしるとおもいます。「外向き」の飲み口は、のびのびとした美しいフォルムが魅力的です。

外向きの美しい抹茶碗の画像
外向きの飲み口の茶碗は、のびやかで美しい形が魅力

ですので、「外向き」の飲み口を選ぶさいには、以下の2つのポイントにご注意ください。

外向きの飲み口を選ぶポイント

1.飲み口が丸く厚みがあること

2.外向きでも、わずかに内側に入っていること

まず1つめの、「飲み口が丸く厚みがあること」についてです。

次の写真は、「外向き」の飲み口の断面図です。

「外向き」の飲み口は、丸く厚みがあることが大事

画像のように、「外向き」であっても、飲み口が丸く厚みがあれば欠けにくくなります。

2つめのポイントは、「外向き」飲み口でも、口が少しわずかに内側に入っていることです。

つぎの画像は、「外向き」でも、口がホンの少し内側に向いている茶碗の一例です。

「外向き」の飲み口でも、少し内側に口が入る茶碗の画像
「外向き」でも、口がホンの少し内側に入るのがよい飲み口

写真のように、「外向き」であっても、口がわずかに内側に向いていれば、割れ・欠けしにくくなります。

ですので、大切な茶碗を長くお使いになれるでしょう。

じつは、この茶碗の作者は、15代目「坂倉新兵衛」(さかくら・しんべい」作のものとなります。江戸時代から、茶道に使う陶器を專門につくる工房です。

「坂倉新兵衛」氏もまた、本物の陶芸家であり、一流の職人だと思います。こういった目立たない「飲み口」をしっかりと作り込んでいるからです。

「外向き」の飲み口の抹茶碗を選ぶときには、口が丸く太くなっているか。あるいは、ホンの少しでも内に入っているかを見きわめましょう。

まとめ

では、以上のことをまとめます。

抹茶碗の飲み口の形には、以下の3つの形がある

  1. 姥口(うばくち)と呼ばれる「内向き」の飲み口
  2. 端そり(はたそり)という「外向き」のもの
  3. 直口(すぐくち)と言われる「まっすぐ」な口

そして、飲み口が飲みやすくて欠けにくいものは、

  • 「内向き」の飲み口

「外向き」の飲み口を選ぶさいのポイントは、

  1. 飲み口が丸く厚みがあること
  2. 「外向き」でも、わずかに内側に入っていること

抹茶碗の「飲み口」選ぶときには、以上のことに気をつけましょう。

また、飲み口以外の「抹茶碗の選び方」についてのポイントは、以下の記事を参照してください。

この記事では、買い物で、失敗しないための「抹茶碗の選び方」をプロの陶芸家の目で解説しています。

このページを読んでいただくと、使いやすく、さらにはお客さまにも喜ばれる「抹茶碗の選び方」がわかるようになります。

この記事を書いている「京都はしもと製陶所」では、「橋本城岳」(はしもと・じょうがく)のブランドで抹茶碗を作っております。

当工房から直接、お客様にお届けしています。そのため、高品質な抹茶碗がリーズナブルな価格でご購入いただけます。

よろしければ、「京都はしもと製陶所」の商品ページを、ぜひご覧になってください。

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この記事を書いた人

橋本城岳(じょうがく)

創業80年 京焼清水焼の窯元
三代目「橋本城岳」(じょうがく)
茶道具をメインに暮らしのうつわを作る。

令和4年 経済産業大臣指定工芸品
京焼清水焼「伝統工芸士」に認定

妻の内藤加奈子(作家名)も陶芸家。
京都の伏見稲荷の陶芸と和雑貨のお店「ギャラリーKACCO」(カッコ)を営む。