抹茶碗は、季節によって形や絵柄をつかいわけます。茶道では、季節感をとても大切にするからです。
しかし、どの季節にどんな絵やカタチの茶碗を選んだらよいのか悩みますよね?
さらに、茶碗にかかれた絵は単に「その茶碗を使う季節の絵柄を選べばよい」というものでもありません。
それは、お客さまを「おもてなし」するための演出をするからです。寒い冬にはあたたかさを感じてもらい、また、暑い夏には涼しくなるような工夫です。
それによって、お客さまによろこんでもらえるかも決まってしまいます。
そこで、この記事では、お客さまに喜ばれる「季節による抹茶碗のカタチや絵柄の選び方」を解説します。
私は、京都の陶芸家として20年近く抹茶碗を作り続けてきました。職人として、また茶道をたしなむ者としての目線で紹介いたします。
季節のちがいによる、適切な「抹茶碗えらび」にお役だてください。
1.抹茶碗の季節による形の違い:春・秋・冬は、冬茶碗。夏は、夏茶碗
抹茶碗は、季節によってカタチが違います。季節によって形を使い分けることで、お茶のおいしさが変わるからです。
寒い季節には、あたたかいお茶をお客さまに楽しんでいただきたいものです。また暑い季節には、お茶が冷めやすくなる工夫が必要です。
そのために、抹茶碗は季節によって形を使いわけるのです。
そして、季節によるカタチの違いは、次のようになります。
1.春・秋・冬は、「冬茶碗」を使う
2.真冬には、「冬茶碗」か「筒茶碗」(つつちゃわん)
3.夏には、「夏茶碗」を用いる
以上のことを順番に説明していきましょう。
1-1.春・秋・冬は、「冬茶碗」を使う
春・夏・秋には、「冬茶碗」(ふゆちゃわん)と呼ばれる形の抹茶碗を使います。それは、お茶が冷めにくいからです。
つぎの写真は、冬茶碗の一例です。
![](https://hseito.com/wp-content/uploads/2019/09/32d57cc998967253cbed14f53d16f86b.jpg)
このように、「冬茶碗」は深めの形をしています。ですので、お茶が冷めにくくなります。
寒い季節には、あたたかいお茶を楽しんでもらいます。それが、お客さまへの「おもてなし」となります。
「春・秋・冬」の季節は、深いカタチの「冬茶碗」を選びましょう。
1-2.真冬には、「冬茶碗」か「筒茶碗」
真冬の季節には、前述の「冬茶碗」もしくは、「筒茶碗」(つつちゃわん)をもちいます。
とくに、筒茶碗は真冬(12月~2月)だけに使う茶碗となります。
次の写真は、筒茶碗の一例です。
![](https://hseito.com/wp-content/uploads/2019/09/852b2d490134c205d4c197b793e71c3a-1.jpg)
写真のように、筒茶碗は、カタチが筒のようになっています。そのため「筒茶碗」と呼ばれるのです。
筒茶碗は、冬茶碗よりも、さらに細く深い形状です。ですので、筒茶碗は冬茶碗よりもさらに茶が冷めにくくなります。
お茶が冷めにくいため、あたたかい茶をお客さまに楽しんでいただけます。
ただし、この「筒茶碗」は、初心者にはおススメできません。理由は、お茶を点てにくいからです。
筒茶碗は、カタチが細いため、茶筅(ちゃせん・お茶をまぜる道具)を振りにくくなります。その結果、お茶の粉末とお湯を混ぜにくいのです。
お茶をうまく点てることができないと、おいしいお茶をお客さまに召しあがっていただけません。
次の写真は、筒茶碗で「茶筅」を振っている様子です。
![](https://hseito.com/wp-content/uploads/2019/09/5f1f91277109414a726b182c0b4f66c8.jpg)
筒茶碗は、ある程度、茶道になれてからお使いになることをおススメします。
その点について、くわしい解説は以下の記事を参照してください。
抹茶碗のカタチは、真冬には、「冬茶碗」をもちいましょう。
1-3.夏には、「夏茶碗」を用いる
暑い夏は、夏茶碗(なつちゃわん)を使います。理由は、お茶が冷めやすい形だからです。
夏茶碗は、お皿のように、飲み口が大きく開いたカタチをしてます。そのため、熱いお茶が早く冷めるようになっているのです。
次の写真は、夏茶碗の一例です。
![](https://hseito.com/wp-content/uploads/2019/09/5b243c19c1da5d6552c1e4cb76306a92.jpg)
暑い夏は、冷めやすいカタチのほうがお茶が飲みやすくなります。ですので、夏は「夏茶碗」を選びましょう。
また、夏茶碗は、「平茶碗」(ひらちゃわん)とも呼ばれます。そして、ひとくちに夏茶碗といっても、さまざまな形のものがあります。
また、夏茶碗のカタチによっては、お茶の点てやすさが変わります。くわしい解説は以下の記事を参照していください。
以上のように、茶碗は、季節でカタチを使いわけます。茶道では、このようなお客さまへの「心くばり」を大切にするからです。
そして、お客さまは、あなたの「おもてなしの心」にきっと気づくことでしょう。
2.抹茶碗の絵柄は、お客さまへの「心くばり」で選ぼう
抹茶碗の絵柄は、お客さまへの「心くばり」で選びしょう。
お客さまへの「心くばり」があれば、茶会が、いっそう喜ばれるものになるからです。
「心くばり」とは、言いかえれば、お客さまにたいする「演出」です。季節によって、茶会をどう「演出するか」ということです。
たとえば、寒い冬には、お客さまに、あたたかさを感じてもらえる演出します。また、暑い夏には、涼しさを感じてもらえる工夫をこらします。
そのような考え方から、絵柄の選び方には次のような方法があります。
1.茶会を行う季節より、すこし先の季節の絵柄を選ぶ
2.茶会を行う季節の絵柄を選ばない
3.茶会を行う季節の絵柄を選ぶ
このように説明すると、わかりませんよね・・・・・・
しかし、説明を読めば簡単です。順番に解説していきましょう。
大切なポイントは、絵柄がお客さまへの「心くばり」になるかという1点だけになります。
2-1.茶会を行う季節より、先の季節の絵柄を選ぶ
茶道では、抹茶碗を使う季節の「すこし先の季節の絵柄」を選びます。これがお客さまにへの「心くばり」となるからです。
たとえば、暑い真夏には、お客さまに涼しさを感じてもらいたいものです。
![暑い夏の風景の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/75d127487e8d4520708ff7bbd820151e.jpg)
そのため、あえて夏の少し先の季節である「秋の絵柄の茶碗」を用います。それによって、お客さまに「秋の涼しさ」を感じてもらうためです。
つぎの写真は、秋の絵柄の抹茶碗です。
![](https://hseito.com/wp-content/uploads/2019/09/32d57cc998967253cbed14f53d16f86b.jpg)
暑い夏に、あえてこのような秋の風物の茶碗をつかうことで、涼しさを演出します。
この茶碗には、中秋の名月やススキ、桔梗(ききょう)そして、萩(はぎ)などの秋の風物がかかれています。これを見れば、お客さまも「秋の涼しさ」を感じられますね。
昔の茶人の考えた、涼しさを演出するための素晴らしい「心くばり」だと思います。
こんどは反対に、「寒い冬」の場合です。
寒さのきびしい冬には、お客さまに、あたたかさを感じてもらえる工夫が必要です。
![寒い冬の景色の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/65f1ce38fecdcad6d2157bd5bb14e0ef.jpg)
そこで、冬には、あえて少し先の季節の「春先の花や風物が描かれた茶碗」を使ってみましょう。
寒い冬に、春の絵柄の茶碗をもちいることで、お客さまにあたたかさを感じてもらうことができます。
![春のイメージの抹茶碗の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/45418f08a507c06749697a10d25cb1ce.jpg)
抹茶碗の絵柄は、暑い夏には、涼しい秋の絵柄を選んでください。そして、寒さのきびしい冬は、春を感じる絵を選んでみましょう。
2-2.茶会を行う季節の絵柄を選ばない
2番目は、抹茶碗を使う季節の絵柄を選ばない場合です。
茶道では、茶碗の絵は、「お茶会を行う季節の草花の絵柄をあえて選ばないように」と教えられることがあります。理由は、本物の花の美しさに遠慮をするという意味からです。
しかし、この言葉を、言葉とおりに受けとってはいけません。
たとえば、お茶会が行われる場所に本物の「あじさい」が飾られていたとします。
![あじさいの生け花の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/128c2341756e8ef1fbf561378a2480ca.jpg)
ここでは、お客さまに、本物の「あじさい」の花に注目して楽しんでもらいたい。そこで、抹茶碗の絵柄は、あじさいではなく、他のものにするのです。
逆に、茶会の場に、「あじさい」の花がなかったとします。
それならば、ぜひ「あじさい」の絵柄の抹茶碗を用いましょう。それが、お客さまに、季節を感じてもらうための「心くばり」となります。
![あじさいの絵柄の抹茶碗の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/4c2e297474372d0730d91df240ee7387.jpg)
茶会の場に、季節の草花があるときです。この場合は、ホンモノの花に遠慮して、ちがう絵柄の茶碗をえらびましょう。
それが、お客さまには実際の花に注目して楽しんでもらうえる「心くばり」となります。
2-3.茶会を行う季節の絵柄を選ぶ
さいごは、抹茶碗を使う季節の絵柄を選ぶ場合です。この場合は、その季節にふさわしい絵柄を選んでもよいのです。
たとえば、春の4月は桜の季節です。しかし、茶会の場では、桜を見ることができないとしましょう。
このときには、美しい「桜の絵の抹茶碗」でお茶を出すことが「心くばり」となります。
![桜の絵柄の抹茶碗の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/1ecf19077e2effc0325f4768305eb269.jpg)
反対に、実際に桜を見ながら、茶会を開く場合です。
そんなときでも、「桜の抹茶碗」を用いてもよいのです。
![桜の花の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/c649f07062201ae553def3f75b91ad4e.jpg)
本物の美しい桜を眺めながら、桜の描かれた茶碗でお茶を飲んでいただく。
それが、お客さまに心ゆくまでに春を楽しんでもらうための「心くばり」となります。
同じような考え方をもう1つ紹介します。
たとえば、真夏に、あえて冬山の景色の抹茶碗を選ぶのです。それによって、お客さまに涼しさを感じてもらえる演出となるからです。
![暑い夏の太陽の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/4c08a8ec7aeb5cc13049148cd04cc248.jpg)
つぎの写真は、冬の「雪山」をイメージして作られた茶碗です。
真夏に、冬山を思わせる茶碗で涼しさを演出
白楽茶碗 銘・不二山 サンリツ服部美術館 より引用
夏の暑さをやわらげるために、あえて冬山の絵の抹茶碗を用いるのです。それが、涼しさを演出するという「心くばり」となります。
以上のように、絵柄を選び方には、いくつもの方法があります。
しかし、すべてに共通するのは、それは、お客さまへの「心くばり」となるかどうかです。
そして、その心くばりは、あなたなりの「心くばり」があればよいのです。抹茶碗の絵柄は、ぜひあなた自身の「心くばり」で演出することを楽しんでみましょう。
まとめ
季節による抹茶碗のカタチの使いわけと、絵柄の選び方をまとめます。
選び方に共通する考え方は、それがお客さまへの「心くばり」になるか、楽しんでもらえる演出かどうかの1点です。
その点から、抹茶碗の選び方は以下のようになります。
1.春・秋・冬は、「冬茶碗」というカタチの茶碗を用いる
2.真冬には、「冬茶碗」または、「筒茶碗」を使う
※ただし初心者は筒茶碗はお茶を点てにくい
3.夏には、「夏茶碗」または、「平茶碗」を用いる
つぎに、茶碗の絵柄は、
1.茶会を行う季節より、すこし先の季節の絵柄を選ぶ(暑さや寒さをやわらげる)
2.茶会を行う季節の絵柄を選ばない(本物の草花の美しさに注目してもらう)
3.茶会を行う季節の絵柄を選ぶ(お客さまに季節を存分に楽しんでもらう)
以上のように、茶道ではお客さまにさまざまな演出をして、「おもてなし」をします。
それは、正式な茶会の場だけではありません。あなたのお家にお友達がおいでになったときでもいいのです。ちょっとした工夫や演出が「おもてなし」になります。
そして、あなたの「心くばり」に、お客さまもきっと気づいてくださるでしょう。
![季節を楽しむ茶会の画像](https://hseito.com/wp-content/uploads/2018/09/03e841f7f36b7c224218a9399042b0e6.jpg)
そして、「抹茶碗の選び方」についての基本的な解説は、以下の関連記事を参照してください。
この記事では、買い物で、失敗しないための「抹茶碗の選び方」をプロの陶芸家の目で解説しています。
このページを読んでいただくと、使いやすく、そしてお客さまにも喜ばれる「抹茶碗の選び方」がわかるようになります。
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