抹茶碗を自分用やプレゼントに買うときや、お茶会に参加するときに「茶道の流派の違いはあるのか?」と思いますよね?
また、お茶を習っていると、「お流儀(おりゅうぎ)はどちらですか?」と聞かれることがあります。
私は、はじめて聞かれるまで「流儀」とは何なのか? さえ知りませんでした・・・・・・
じつは、茶道にはさまざまな流派があります。それぞれの流儀によって作法がちがいます。
そこで、このページでは、「抹茶碗などのお茶の道具を選ぶときの流派の違い」について紹介させていただきます。
私は、京都の陶芸家として抹茶碗を20年以上つくり続けてきました。職人としての目線で解説いたします。適切な抹茶碗えらびにお役だてください。
1.流派による道具の違いは、千家流が基本
茶道の流派がちがっても、「千家流」(せんけりゅう)で抹茶碗やお道具を選ぶことがスタンダードとなります。
千家流とは、「千利休」(せんのりきゅう)がはじめた流派(りゅうは)です。「千家流」には、次の3つの流派があります。
1.「表千家」(おもてせんけ)
2.「裏千家」(うらせんけ)
3.「武者小路千家」(むしゃのこうじせんけ)
この3つの流派は、すべて「千利休」が祖先となります。
以下の写真は、「千利休」の肖像画です。
千利休は、今ある全ての茶道流派の祖先
千利休像 京都国立博物館冊子 より引用
その「千利休」は、今から約400年前に、現在の茶道を完成させた人物でもあります。ですので、千家流でも、他の流派であっても、今の茶道は、すべて「千利休」の教えを基本としています。
そのため、千利休が考えたお茶の作法や茶道の道具(抹茶碗など)は、たいていの流派でスタンダード扱いとなっています。
たとえば、千家流以外の有名な流派を上げると以下のようになります。
【堺流】(さかいりゅう)・・・創始者は武野紹鴎(たけの・じょうおう)。千利休は、この人から茶道を学びました。
【織部流】(おりべりゅう)・・・戦国武将の古田織部(ふるた・おりべ)が創始者。千利休の弟子のひとり
【藪ノ内流】(やぶのうちりゅう)・・・初代は藪内剣仲(やぶのうち・けんちゅう)。千利休が剣仲の兄弟子にあたり、剣仲は千利休の教えを受けつぎました。
【遠州流】(えんしゅうりゅう)・・・小堀遠州が祖先となります。千利休の弟子である「古田織部」(ふるた・おりべ)に茶道を学んだ。
【宗旦流系】(そうたんりゅう)・・・江戸時代に千利休の孫にあたる「千宗旦」(せんのそうたん)が始めた流派です。
【三斎流系】(さんさいりゅう)・・・戦国大名の細川忠興(ほそかわ・ただおき)が祖先です。千利休の弟子になります
以上のように、現在の茶道の流派のほとんどが、「千利休」に教えや大きな影響を受けているといえます。
こうして見ると千利休は、ほんとうに偉大な人物だったと、あらためて思います。
また、その点について茶道専門の学校である
- 「裏千家学園茶道専門学校」
- (うらせんけがくえん・さどうせんもんがっこう)
- 理事「岡本浩一」(おかもと・こういち)
- 茶名「岡本宗心(おかもと・そうしん)
さんは、以下のように述べています。
「茶道の流派のすべてに共通する祖先は、千利休です。利休居士(りきゅうこじ)が祖でない流派はないと言って過言ではありません」
一億人の茶道教養講座 岡本浩一著 淡交社刊 より引用
このような理由から、流派が違うときやわからないときでも、千家流で抹茶碗を選んでよいのです。
また、私の知りあいの茶道の先生は「表千家」です。
しかし、その先生の息子さんは、「裏千家」で茶道を習っておられます。ですが、先生が持っておられる抹茶碗などの道具はすべて、
「息子にそのまま継がせる」とおっしゃっていました。
以上の理由から、プレゼントに抹茶碗を贈るときや、流派のちがうお客さまをお招きする茶会です。そういうときも、千家流で茶碗を選んでもかまいません。
2.家元の書付がある茶碗は、他流派で使わない
各流派の「家元」(いえもと)の「書付」(かきつけ)がある茶碗や道具は、「正式の茶会や茶事」では使いにくいものとなります。
「家元」とは、その流派をついでいる当主の人のことを指します。
また、「書付」とは家元や有名な茶人によって書かれたサインのことです。抹茶碗や道具の木箱のフタの裏に署名されています。
この書付によって、茶碗や道具の名前や由来などが明らかにされています。
次の写真は「書付」の一例です。
書付は、いわば「お道具の保証書」
WABI×SABI箱書きの意味とは?家元や茶人の書付は何のためにある より引用
つまり、「書付」とは、その箱に入っている抹茶碗や道具の保証書となるものです。
このように、ある流派の家元の「書付」のある道具を「他の流派の茶会」では使いにくいものです。この点は、あなたも分かっていただけると思います。
ただ、他の流派の方をお誘いしての「気楽や茶会」や「お稽古」で、書付のある道具をお使いになるには問題ありません。その場合は、「書付」のことを一言そえて用いるようにしましょう。
それに、書付がある道具は「歴史がある道具」ということです。
ですので、茶会でのお話しのタネにもなります。ですので、そのお茶会での会話にも、はずみがつき楽しいものになるでしょう。
ただし、その流派の「正式な茶会」では、他の流派の家元の書付のついた抹茶碗やお道具を用いることは控えておきましょう。
3.ちがう流派の茶会では、一言あなたの流儀を伝えておく
ちがう流派のお茶会では、一言あなたの流派を伝えておけば大丈夫です。現在の流派は、そもそも千家流がスタンダードとなっているからです。
それぞれの流派によって、細かな作法の違いはあります。
しかし、多少の作法のちがいによって失礼になるかは問題ではありません。理由は、茶会の目的は、お茶をおいしくいただくためにあるのです。そして、「いかに美しい動作をするか」が大事だからです。
私の場合は、はじめにお稽古をはじめたのは「表千家」でした。そして、今は「裏千家」でお稽古をさせていただいています。おなじ千家流でも細かい作法には、かなりの違いがあります。
たとえば、同じ千家流でも、お茶の点て方は以下のような違いがあります。
表千家・・・あまり泡だてない
裏千家・・・しっかり泡立ててクリーミー
武者小路千家・・・あまり泡だてない
また、所作のちがいでは、以下のようになります。
表千家・・・タタミ1畳を左足から6歩で歩く。
裏千家・・・タタミ1畳を右足から4歩で歩く。
武者小路千家・・・柱付(はしらつき)の足から1畳を6歩で歩く。
(柱付の足から入ることで、体が客のほうに向くからです。そのため、茶室によって左右どちらの足から入るかは変わります)
以上のように、作法についても、細かい点では違いがあります。
しかし、問題は、「タタミを6歩で歩く、いや4歩で歩かなければならない」ということではありません。
大事なことは、「タタミのヘリを踏まずに、いかに美しく歩くか」や「お客さまへの心くばり」ということです。
この点について、武者小路千家(むしゃのこうじせんけ)の15代家元後継者の「千宗屋」(せん・そうおく)さんは、以下のように述べています。
お茶の作法通りでなかったとしても、それは問題ではありません。
大切なのは、気持ちと頭を働かせて、理にかりったやり方を即時に見つけ出し、おどおどせずに堂々とする、ということです。
(中略)
安全に、大切に、茶碗をあつかうにはどうすればいいいのか。そう考えれば、おのずと動きは決まってくるものです。
「もしも利休があなたを招いたら」 千宗屋著 角川新書刊 より引用
実際、私が茶道を習った先生によっては違う教え方をされたこともあります。それが、同じ流派であってもです。
それに、茶道には、さまざまな流派があります。そのすべての作法を間違いなく身につけている方は、おそらく存在しません。
作法が合わないからと言って、異なる流派の人たちとの交流がなくなることも、つまらないことです。
このような理由から、他の流派の方をまじえても、気楽なお茶会やお稽古(おけいこ)では、まったく問題ありません。
また、正式な茶会や茶事では、「お流儀は○○です」と、あなたの流派をひとこと添えるようにしましょう。
まとめ
茶道には、有名無名を問わず、さまざまな流派があります。
しかし、現在の茶道の流派はすべて「千利休」が祖先となっています。ですので、プレゼントで抹茶碗などを贈るときは、「千家流」の選び方で選びましょう。
ただし、次のポイントには注意してください。
・他流派の「正式な茶会」で、別の流派の家元の「書付」のある抹茶碗や道具は使わない。
・茶会を始める前に、自分の流派をひとこと伝えておく
・作法のちがいで大切なのは、作法ではなく、「美しい動作」とお客さまへの「心づかい」
この点だけ押さえて、お茶会を楽しいものにしていきましょう。
さいごに、お茶の作法について、茶道の祖である「千利休」に次のような話があります。
あるとき、千利休は茶会にまねかれました。
ところが、まねいた亭主は、とても緊張していました。お湯はコボすは、茶筅(ちゃせん・茶をまぜる道具)をヒックリ返すわ・・・・・・
その茶会の帰り道、利休と同席した客が、「今日の亭主は最悪でしたね~」と笑いました。
しかし、利休は、「今日の亭主ぶりは天下一」と言ったそうです。
たしかに、亭主は、緊張でガチガチになってました。でも、それは一所懸命な心があったからこそです。
そして、利休はこう言いました。「あなたの目には、亭主の心づくしのしつらえや、準備が目に入らなかったのですか?」と
亭主の気持ちは、しっかりと利休に伝わっていたから、この茶会は「良い茶会」だったと言えるでしょう。
また、よい茶会では、亭主が伝えたいこと、見せたいものという目的がハッキリとしています。その目的を亭主と客のおたがいが、余計な説明をすることなく、おしはかり合うことが大切です。
また、本当に良いお茶会にするための「抹茶碗の選び方」について詳しい解説は、以下の関連記事を参照してください。
この記事では、お買いもので失敗しないための「抹茶碗の選び方」をプロの陶芸家の目線で解説しています。
このページを読んでいただくと、使いやすく、そしてお客さまにも喜ばれる「抹茶碗の選び方」がわかるようになります。
また、京都はしもと製陶所では、橋本城岳(はしもと・じょうがく)のブランドで抹茶碗を製作しています。
京都の清水焼の熟練の職人による、すべての工程が手づくりのものです。
「京都はしもと製陶所」では工房から直売となっています。そのため高品質であってもリーズナブルな価格となっています。
よろしければ、京都はしもと製陶所の商品ページも一度ごらんください。