楽焼・萩焼・唐津焼・井戸茶碗:濃茶の格の高い抹茶碗を陶芸家が解説

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抹茶碗には「格」(かく)があることをご存じですか? 茶碗に「格」があることなど、陶芸家の私でも、初心者のころは知りませんでした・・・・・・

じつは、抹茶碗には「格」があるのです。

格が上、格が下の「格」です。そして、お茶会の種類によっては、格の高い茶碗を用いなければなりません。

そこで、このページでは、茶道で使われる抹茶碗の「格」や「格の高い茶碗」についてご説明いたします。

京都の陶芸家の私が、職人としての目線で解説いたします。抹茶碗選びの際ににお役立てください。

1.格の高い抹茶碗は、濃茶でもちいる

格の高い抹茶碗は、「濃茶」(こいちゃ)を飲むときに用いられるものです。茶道では、「濃茶」と「薄茶」(うすちゃ)の二種類のお茶席があるのです。

「濃茶」の茶席と「薄茶」では、使われる茶碗も、茶葉(ちゃば)の種類も変わります。

「濃茶と薄茶のちがい」について、詳しいことは、以下の記事に解説しております。

また、「茶道の茶会とはどういうものなのか?」については、以下の記事をご参照ください。

その「濃茶」では、格の高い茶碗の中から選ぶことが、茶道の決まりごととなっています。

そして、基本的には、無地の抹茶碗が、格が上となります。絵のついたものは、格が1つ下がるとお考えください。

しかし、絵柄のあるものであっても、次のような抹茶碗は、格の高いものとなります。

  • 有名な陶芸家や茶人の抹茶碗
  • 茶道の家元の書付(かきつけ・「おすみつき」の意味)のあるもの
  • 歴史のある茶碗

このように、抹茶碗には、「格」があることを覚えておきましょう。

2.抹茶碗の格:一楽・二萩・三唐津つづいて井戸茶碗

抹茶碗の「格」の高さは、「一楽・二萩・三唐津・つづいて井戸茶碗」(いちらく・にはぎ・さんからつ・つづいて、いどちゃわん)となります。

この決まりごとは、抹茶碗が、「茶道にとって使いやすいものかどうか」が、基準の1つとなっています。

そういった考え方から、茶碗の格の高さは、次の順番になります。

茶碗の格の順

1.楽焼

2.萩焼

3.唐津焼

4.井戸茶碗

これを茶道では「一楽・二萩・三唐津」(いちらく・にはぎ・さんからつ」、続いて「井戸茶碗」(いどちゃわん)というふうに呼びます。

次にそれぞれの、茶碗を詳しく解説していきます。

2-1もっとも格の高い抹茶碗は、「楽焼」

もっとも格が高い抹茶碗は、「楽焼」(らくやき)となります。これは、茶道の決まりごとのひとつになります。

以下の写真は、楽焼の茶碗の一例です。

楽焼には、黒い色の「黒楽」(くろらく)や、赤い「赤楽」(あからく)と呼ばれるものがあります。

楽焼の抹茶碗(黒楽)は、もっとも「各」の高い茶碗
楽焼(赤楽)の一例。楽焼きは、茶を飲むためだけに作られた抹茶碗。

この楽焼は、約400年前に京都で生まれた焼き物です。その特徴は、茶道の「濃茶」での茶会での使いやすさを考えて作られていることです。

お茶を点てるときには、抹茶の粉末とお湯の混ぜやすいかどうかがあります。楽焼には、お茶を点てやすい工夫がされています。

そのひとつが、「茶筅摺り」(ちゃせんずり)といわれる部分です。

以下の写真の赤でかこった中が「茶筅摺り」です。

楽焼の「茶せんずり」の画像
楽焼の「茶せんずり」

抹茶碗の底のあたりが広くなっています。そのため、「茶せん」(茶をまぜる竹の道具)を回しやすくなっているのです。

また、楽焼は、お客さまが、飲みやすい工夫もされています。

それは、抹茶碗の口づくりです。楽焼の飲み口は、やや「内むき」になっています。次の写真は、楽焼の飲み口の一例です。

楽焼き飲み口の画像
楽焼の茶碗の飲み口は「内むき」

写真のように、飲み口が「内むき」だと、茶を飲むときに、茶のしずくが外にたれにくくなっています。茶が外にタレていしまうと、タタミなどをよごしてしまうからです。

「外むき」の飲み口では、茶のしずくがこぼれやすい

また、見ための特徴は、「手捏ね」(てづくね)という作り方にあります。手で捏ねて(こねて)つくることからそう呼ばれます。

2-2.二ばんめに格の高いのは、「萩焼」の抹茶碗

萩焼(はぎやき)は、山口県の萩市(はぎし)で、作られている茶碗です。萩では、約400年前から、茶人(ちゃじん・茶道の先生)の好む茶碗を多く作ってきました。

そのため、茶道に適した茶碗が多くあるのです。

萩焼の抹茶碗の一例。萩焼は、茶人好みの茶碗が多く作られる。

萩焼の特徴は、「七化け」(ななばけ)と呼ばれる色の変化です。次の写真は、その「七化け」の抹茶碗の一例です。

見た目が7回変わる「七化け」の萩焼の抹茶碗

萩焼資料館 粉引茶碗 二代目 坂助八作 より引用

長い間に、抹茶碗を使い込むことにより、茶渋(ちゃしぶ)などのよごれが、茶碗にしみこんでいきます。これが、使い込んだ味わいをみせます。

1-3.三ばんめは、「唐津焼」の抹茶碗

唐津焼は、九州の佐賀県(さがけん)から長崎県(ながさきけん)にまたがっている焼き物の産地です。

佐賀県の唐津焼の抹茶碗の一例

現代茶道具作家作品集(上巻) より引用

この地域は、一説では1000年以上前の平安時代から続く産地と考えられています。そのため、茶碗づくりの技術もすぐれているのです。

その特徴は、素朴なつくりでありながら、独特のシブみがあることです。

1-4.四つめは、「井戸茶碗」(いどちゃわん)

井戸茶碗は、高台(こうだい・茶碗の足の部分)がガッシリと大きいカタチをした茶碗のことを言います。

もともとは、朝鮮で作られていた食器です。

井戸茶碗は朝鮮半島で作られた茶碗

大井戸茶碗 久田宗也著 日本放送出版協会 より引用

井戸茶碗は、その形が茶道のお茶を飲むのに適していたのです。そのため、日本に持ち込まれることになりました。

しかし、その形が、茶道の茶碗として適していたのです。こういう理由で、抹茶碗として用いられるようになりました。

まとめ

格の高い抹茶碗についておさらいします。格の高さは、次のような順番となります。

  1. 楽焼
  2. 萩焼
  3. 唐津焼
  4. 井戸茶碗

このように基本的には、無地の抹茶碗が、格が上となります。絵のついたものは、格が1つ下がるとお考えください。

しかし、絵柄のあるものであっても、次のような抹茶碗は、格の高いものとなります。

  • 有名な陶芸家や茶人の抹茶碗
  • 茶道の家元の書付(かきつけ・「保証書」の意味)のあるもの
  • 歴史のある茶碗

このように、抹茶碗には、「格」があることを覚えておきましょう。

関連記事として、以下の記事では「抹茶碗の選び方」について詳しく解説しております。

この記事では、プロの陶芸家の目線で、「抹茶碗の選び方」を解説しています。

じつは、抹茶碗の選び方によっては、お茶の点てやすさ、そして、おいしさまで変わるからです。さらには、よい茶会になるかまで決まります。

ぜひ、ご一読ください。

京都はしもと製陶所では、すべての工程が手づくりの抹茶碗を製作しています。京都の熟練の職人によるものです。

また、工房から直売となっているため、高品質であってもリーズナブルな価格となっています。

よろしければ、京都はしもと製陶所の商品ページも一度ごらんください。

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この記事を書いた人

橋本城岳(じょうがく)

創業80年 京焼清水焼の窯元
三代目「橋本城岳」(じょうがく)
茶道具をメインに暮らしのうつわを作る。

令和4年 経済産業大臣指定工芸品
京焼清水焼「伝統工芸士」に認定

妻の内藤加奈子(作家名)も陶芸家。
京都の伏見稲荷の陶芸と和雑貨のお店「ギャラリーKACCO」(カッコ)を営む。